
下肢のしびれや疼痛(下肢の神経症状)の有無で、腰痛治療は大きく違います。下肢の神経症状のない腰痛は、筋筋膜性腰痛(筋肉疲労)、腰椎椎間関節炎、仙腸関節炎、軽度のヘルニア(大きいものは下肢痛を起こす)などを考えますが、そのどれかを特定することは、なかなか難しいことです。しかし、どのタイプの腰痛であっても治療は殆ど同じなので、患者さんは思い悩むことはありません。消炎鎮痛剤(ロキソニンなどの痛み止め)を4~5日飲めば治ります。痛みが強い時は、麻酔薬を注射すると効果的です(トリガーポイント注射)。
初期治療を逃すと、治療困難な慢性腰痛症(脳が痛みを覚えてしまう)になるので、少しでも早く痛みを和らげることが重要です。「クセになるから薬を飲まない」「痛み止めは一時的に効くだけ」と言って我慢される方もおられますが、痛いのを我慢して得することなど一つもありません。
腰痛の初期は炎症が起きているため、炎症を抑える消炎鎮痛薬がとても有効です。確かに、薬は5~6時間しか効きませんが、その間に炎症が軽減し、次の服用でさらに軽減し、数日間服用することにより炎症が治り、腰痛がなくなるということです。
消炎鎮痛薬は患者さんに分かりやすいように便宜的に「痛み止め」と言っていますが、これは「炎症を抑えることで痛みを取る」ものであり、「臭いものに蓋をする」ように、痛みを感じさせなくするものではありません(これらは根本治療でないため一時的な効果しかない)。
ここまで説明すると、皆さんもうお分かりでしょうが、慢性期になると炎症は既に収まっているので、消炎鎮痛薬は効きません。
慢性腰痛の治療は説明が難しいので、ここでは省きます。
サプリ、整体、接骨、マッサージで腰痛が治ったという方もおられますが、それはたまたま自然経過で治ったものと考えられます(しなくても治っていた)。そういった施術で貴重な時間を失わないようにしてもらいたいものです。また、腰痛などの施術で接骨院で保険証を使うのは違法ですから、注意してください。
ちなみに、いわゆる「ぎっくり腰」はまだ病態が分かっていません。急性腰痛症のなかで、特に「ぎっくり」して腰が痛くなるものをそう言うだけであって、他の急性腰痛症との違いは明確ではありません。
下肢の神経症状のない腰痛には、MRIは不要なばかりか、有害なことがあります。腰痛のない人100名にMRI検査をすると30名程度にヘルニア等の異常所見が見つかります。つまり、MRIでヘルニアがあっても、腰痛の原因がヘルニアであるとは限らないのです。こういう例に安易にヘルニアの手術をすると、「手術しても治らない」という、悲惨な結果になります。MRIで異常所見があっても、それだけでは手術にはならないのです。

上記で下肢痛のない腰痛について話しましたが、ここでは下肢痛のある腰痛のお話をします。今この文章を読んでいる方は、まさに「下肢痛のある腰痛」でお困りだと思います。でも安心してください、殆どの場合は治ります。
その前に、図を見てください。
脊椎から出る神経根(知覚神経と運動神経の両方が入っている)が支配する体の部位(デルマトームという)は決まっています。
驚くことに、人間以外の動物でも支配部位は同じです。
例えば、図のL5の場所(下腿外側)がしびれたり痛かったりすれば、L5の神経根が障害されていることになります。
L5神経根が障害される病気としては、第4腰椎と第5腰椎の間の椎間板ヘルニアが考えられます(L4/5ヘルニア)。
同様に、ふくらはぎが痺れていれば、S1神経根が障害されていることになり、第5腰椎と第1仙椎の間の椎間板ヘルニア(L5/S1ヘルニア)を疑います。
このように、痺れたり痛い場所から、病変部位を推測することが可能です。問診だけでも診断が付くので、MRIは必須という訳ではありません。
下肢痛のない腰痛は1週間で治ると言いましたが、下肢痛のある場合は1~2ヶ月の治療が必要です。
治療としては、消炎鎮痛剤の内服、リリカやタリージェ等の神経系に働く薬の内服、医療用麻薬(トラムセットなど)の短期間の内服、坐薬の使用などがあります。
「座れない、歩けない」などの強い症状があれば、硬膜外ブロックを4~5回行います。
腰痛、下肢痛のひどい人は、待合室で立って待っていることが多く(ヘルニアは座ると痛いので)、診察室に脚を引きずって入られることが多いです(優先的に先に診るようにしています)。
こういう例では、最初から硬膜外ブロックを行います。
これらの治療で、95%以上は治ります(症状が消える)。
但し、5%前後の方は手術になります。
では、どんな人が手術になるのでしょうか。
その前に、L5とS1の運動神経を考えてみましょう。
上の図(デルマトーム)でL5とS1の知覚領域(痛みやシビレを感じる場所)は理解していただけたと思います。
一方、L5とS1の運動は次のように覚えてください。
L5運動神経は足首を背屈させる(踵歩き、車のアクセルを緩める)。
S1運動神経は足首を底屈させる(つま先歩き、アクセルやブレーキを踏む)。
踵歩き、つま先歩きのどちらかが出来ないと、その神経がかなりの障害を受けていることになり、手術が必要になることが多いのです(軽い運動麻痺なら自然に治る人もいる)。
ですから、足が痺れている人は、必ず、踵歩きとつま先歩きが出来るか自分でチェックしておいてください。
運動麻痺(麻痺という言葉は知覚障害には使わない)を放置すると、跛行(びっこ)などの歩行障害が残りますし、右脚が障害された場合、車の運転が非常に危険になります。階段昇降も難しくなり、階段から転落する危険性もあります。
さて、治ると言っても、神経の炎症が治まって下肢痛や腰痛がなくなっただけで、元々の原因の椎間板ヘルニアが治る訳ではないので、再び神経がヘルニアで圧迫されて炎症を起こせば、症状が再発することになります(大きなヘルニアの場合は消えることもある)。
ですから、重いものを持つ時など、注意をしましょう。
肥満にも注意してください。
あぐらは避け、正坐を行ってください。
また、痛い時に治療として腹筋、背筋などの筋トレをする人がいますが、却って悪化しますからやめてください。
筋トレは腰痛の予防であって治療にはならないので、筋トレは腰痛、下肢痛が治ってから行ってください。
もっとも、治ったらしない人が殆どなのですが…。